小田原の自然
「小田原の自然」刊行によせて
皆さんが暮らすこの小田原は、箱根に連なる緑の山々に囲まれ、南部は恵み豊かな相模湾に面し、中央部を南北に酒匂川が流れ、肥沃な足柄平野の大地が広がっています。
山、森、川、田園、海など、あらゆる自然環境を備えており、温暖な気候と豊かな自然が生み出す大地の恵みが私たちの生活を支えています。
小田原の歴史や文化は、こうした自然を礎に長い年月にわたり築かれ、中世には小田原城を中心とする関東最大の城下町、また近世には東海道屈指の宿場町として繁栄しました。現在は、神奈川県西部の中心都市として発展し、様々な役割を果たしています。
小田原市がめざす「持続可能な地域社会モデル」の中に、「いのちを支える豊かな自然環境がある」「自然と共存し人々と手を携えていく意識と力を持つ人間が育っている」とあります。豊かな自然や環境を保全、充実していく取組を進め、みなさんとともに、これまで先人たちが残してくれた自然を次世代に引き継いでいくことは、「世界が憧れるまち“小田原”」の実現にもつながると考えています。
児童・生徒の皆さんが、この本をきっかけに、一つでも多くの小田原の自然を知り、触れることで、共に暮らす喜びを感じていただくことを期待するとともに、豊かな自然を守り育てる、希望と活力あふれる市民の一人として、健やかに大きく成長していくことを願っています。
令和3年3月
小田原市長 守屋 輝彦
序
豊かな自然は、私たちの命と生活を支えています。私たちのまち小田原は、その豊かな自然から多くの恩恵を受けながら歴史を刻んできました。
小石1つから地形の成り立ちが見えます。動物や植物の生態から環境の状態がわかります。年ごとに地域の自然を観察すると、生態の変化に気づくことができます。自然は私たちに癒しを与え、生きることの素晴らしさとともに厳しさを教えてくれます。ゆっくりと長い年月をかけて変化し、時には激しい姿を見せることもあります。
近年、全国各地で自然災害が頻発し、これまでの想定を超えた被害や日常生活への影響を与えています。このような地球規模の気候変動に対しても、私たち一人ひとりが自然への関心や理解を深め、身近にある自然から学び、これからの環境のあり方を考えていくことが大切です。
小田原市小中学校理科副読本『小田原の自然』は、平成9年に発刊され、多くの小・中学生に活用されてきました。その後も小田原の自然環境の変化を反映させながら、改訂を行っています。ぜひ、この本を手に、小田原の自然に触れ、自然の素晴らしさを感じるきっかけにしてほしいと願っています。
最後になりましたが、副読本作成にあたり、ご尽力・ご指導いただいた先生方に、心から御礼申し上げます。
令和3年3月
小田原市教育委員会教育長 栁下 正祐
はじめに
自然は、いつも当たり前のように私たちを取り囲み、何気なく変化を繰
り返していて、よほど注意深く観察していなければ、その素晴らしさや美しさに気がつかないものです。
野山や荒れ地に、ひっそり咲
いている花をよく見ると、庭に咲いている花以上に美しいことがわかり、「ああ、この草花たちも確かに生きているんだ。」と共感できます。また、今までは「怖
い」「汚
い」「危
ない」と思っていた虫たちや生き物たちが、精一杯命の営みを重ねていることに気づき、私たちと同じ命を持っているのだということを考えさせられたりします。
私たちの回りでは、いろいろな生き物が、生まれ、育ち、そして死んでいっています。生きるために、他の生き物の命をうばい、子孫を残すための一見醜
い争いをくりひろげています。しかし、よく観察すると調和のとれた、自然の大きなしくみをとらえることができますし、切通しや川で削
られた崖
などを良く見ると、土地を造っているものの色や形、含まれているものの性質の違いから、その土地の過去の成り立ちを読み取ることができます。
けれども、よい案内者なしでは見過ごしがちな身近な自然をより深く観察し研究することはなかなか難しいものです。
そこで、小田原の身近な自然を観察し、研究できるようにするために、理科の副読本として、ガイドブックを作成しましたが、今回の改訂により、さらなる活用の充実をめざし、題名を小田原市小・中学校理科副読本としました。
理科の学習時はもとより、課外学習や自分自身の学習等、生涯にわたってこの本を活用し、身近な自然に対する理解を深め、自然を深く観察する力や科学的に考える力を身に付けてほしいと思っています。しかし、それ以上に私たちを取り囲んでいる自然の中の、多様な生命の営
みを知り、それを尊重
し、愛護
しようとする優しい心を育てていってほしいと思っています。
この本の使い方
小田原には海があれば、川もあり、山や平野もあって、色々な自然環境に恵まれています。そして、それぞれの自然環境の中で色々な動植物が生命の営
みを繰
り広げ、命の輝
きを見せてくれています。また、あちこちで見られる地面や崖などの地層や化石が、小田原の地形の成り立ちを語りかけてくれています。
この本は、そんな豊かな小田原の自然を観察したり、調べたりして自然にふれ、親しむための案内書です。
小田原の自然環境を、海岸・河原・平地・丘陵・山地の5つに分け、どこに行けばどんな動植物が観察できるか分かるように、写真やイラストを中心にして説明してあります。
例えば、山に行って自然観察をしようとしたら、まず、観察ポイントをどこにするのか山地のガイドマップで調べてください。代表的な観察地点のコースを説明してあります。また、そこには現地に行くまでに利用できるバス停や駅名などが書いてありますので参考にしてください。注意事項も参考にしてください。
次に山の花を見たい人は植物のページを、山の虫を見たい人は虫のページを見てください。小田原の山で見られる主な物が分かります。鳥やその他の生き物についても同様です。
海岸や河原では水中の生き物についても扱
っています。地質については、小田原全体をまとめて説明しました。
現地で観察するときも使えるように、持ち運びができるようにしましたので、必ず、持っていって活用してください。
本書で紹介した18の観察コースに足を運び、小田原の豊かな自然とたっぷりふれあってください。
自然は本当に多様で謎
の多い世界です。この本にのせたものはその中でよく目につくもののほんの一部です。より深く、より広く調べてみたい人は、他の専門書を見たり、観察会に参加したりしてください。きっと素晴らしい小田原の自然を発見できるでしょう。
小田原の自然のあらまし
(1)地形と自然
小田原の地形は大きく分けると、西側の山地、中央の低地、東側の丘陵の三つに分けることができます。
西側の山地は箱根外輪山の一部である明星
ヶ
岳
(924m)、白銀
山(993m)、聖
岳
(838m)の斜面です。ここは主にミカン畑やスギ・ヒノキの植林地として使われていますが、上部に自然林や草原が残っていて自然の観察ができる所があります。白銀山、聖岳の斜面は相模湾と断崖
となって接し、磯浜となっていて海の生き物のよい観察場所となっています。
中央の低地は丹沢山地や富士山の麓を水源として流れる酒匂川によって造られた足柄平野です。ここはほとんどが水田や住宅地として利用されていて自然の少ないところですが、空き地や休耕田などには野草が花開き、虫や鳥が生きていますし、人間との関わりの深い生き物が活動しています。足柄平野は砂浜となって海に接しています。中央を流れる酒匂川の河原や河口は、豊かできれいな水に恵まれたよい自然の観察場所となっています。
東側の丘陵は国府津から曽我山に続く200m内外の小高い丘でできています。ここは主にミカン畑や梅林として利用されていていますが、自然観察のできる場所もまだたくさん残っています。
(2)気候と自然
箱根外輪山の一部を成す高さ700m以上の山地を除いた小田原地 方の気候を一言で言えば、暖かく雨の多い気候と言えます。それは、小田原が中緯
度に位置していることと同時に、背後に山をひかえ、南に黒潮
の流れる相模の海に臨
んでいるからです。
年平均気温は16度前後で、12月から2月までの気温でも0度を下回ることは余りありません。また、太平洋岸気候に位置しているので、冬は晴れる日が多く雨は少ないのですが、それでも平均50ミリ以上の雨に恵まれていて、年間の総雨量は2000ミリを優
に越
えています。
このような気候によって、小田原地方の平地や丘陵は暖帯性の草木が茂
り、それを基盤
にしたたくさんの生き物が生息していただろうと考えられます。けれども現在は人間生活のために開発されてしまって、自然はほとんど残っていない状況です。しかし、寺社林や祠
の周辺に自然林のおもかげが残っていますし、保存地区には貴重な自然の森も残されています。海岸には海浜植物が多く生育していますし、水田や畑・住宅地の空き地などでは、色々な生き物が生活しています。
700m以上の山地には植林地の合間に温帯林の一部が残り、落葉樹を中心とした豊かな自然があります。
自然観察のしかた
自然観察のしかた
自然観察をするには、自分の決めたコースをできるだけゆっくりと歩いてみることが大切です。本書で紹介したコ-スは、2kmから5kmくらいの距離ですから急いで歩けば1~2時間で歩けますが、自然観察をしながら行くと3~4時間はかかります。よく観察するためにはそれ以上時間がかかるかも知れません。
目、耳、鼻などの五感を働かせ、じっくり観察してください。きっと色々な動植物に出会うことでしょう。それが何なのか知りたいときはこの本を使ってください。その時に動植物がどんな環境に育ち、生活しているのかをまわりの自然と関係づけてみることも大切です。
ある季節に色々な環境の自然を観察して見ることもいいですし、一定の地域を一年間かけて観察することもおもしろいものです。観察したことや研究したことはまとめておくと理科の学習の参考になったり、市の科学展に出品したりすることができるかもしれません。
自然観察上の注意
服装や持ち物
観察ポイントとコース
観察コースガイド
小田原の自然観察ノート No.1
海岸の自然観察
砂浜の自然観察ガイド
酒匂川の流れによってつくられた足柄平野は、長い砂浜の海岸線で相模湾と接しています。そこには厳しい環境に耐え、いろいろな生き物がいます。さあ、砂浜をじっくり観察しましょう。
砂浜の自然観察ガイドマップ
酒匂川の河口を中心に東側は酒匂海岸、西側は山王海岸から御幸の浜の海岸です。その中でも、山王海岸は砂浜の自然が豊かです。
砂浜の生き物
神奈川県の海岸線の大部分を占めるのが砂浜海岸で、昔から「白砂青松」と言われて人々に親しまれてきました。砂浜には、深い穴を掘ってスナガニの仲間が生活しています。
夜行性のスナガニは日が暮れると穴からはい出し、打ち上げられた海藻や動物質などを食べて生活していますが、冬になると冬眠して、翌春また活動します。
ツノメガニの死滅回遊
希 にツノメガニの子どもがみつかります。ツノメガニは沖縄 などの熱帯地方を生息地とする大型のスナガニの仲間で、子どもの時にプランクトン生活をして黒潮の流れに乗って本州沿岸までやって来るのです。水温の高い夏から秋にかけて成長しますが、冬になると凍死してしまうようです。毎年この現象が見られるので「死滅 回遊」といいますが、もし日本の気温や水温が上昇するとツノメガニも定住できるようになるのでしょう。生物はこのように大きな犠牲 をはらって、いつも生息域 を広げようとしているのです。
砂浜の植物
光、水、温度、塩分など厳 しい環境条件の中で生活しています。内陸 に入るにしたがい、それぞれ環境に適した植物が生育し、森林 へとつながっていきます。海岸付近に生育する植物は、葉が厚くつやのあるものが多いです。
磯の自然観察ガイド
早川から根府川や江之
浦にかけての海岸は、岩が波で削
られてできた磯浜
です。ここでは、磯特有な植物や生き物が観察できます。
潮だまりを中心にゆっくり自然観察をしましょう。
磯の自然観察ガイドマップ
この観察コースは、交通機関を利用するコースです。車道も歩かなければなりません。けれども、目的地江之 浦に着くと、やさしい潮風 が迎 えてくれますし、楽しい磯の観察が楽しめます。
・大波や上げ潮などに十分気をつけましょう。
・一人では行かないようにしましょう。
磯の観察【道具・注意点】2021
磯の生き物
暖流
である黒潮
の支流が流入する相模湾は、南方系の魚なども多く見られます。特に夏季になって水温が上昇するとその数が増すことはよく知られています。
一方、相模湾の深い所では親潮
系の冷水が流入しているので、北方系の生物も生息しています。
さらに相模川・早川や酒匂川などの河川からも丹沢・富士山麓・箱根の森林由来の栄養塩類
が運ばれてくるので、相模湾は多種多様な生物が生活できる環境となっているのです。
小田原地方の夏涼しく、冬暖かいという温暖な気候は相模湾の表層を流れる暖かい海水のおかげなのです。小田原を代表するウメやミカンなどの農産物も相模湾がもたらした産物ともいえます。
磯の観察【磯の生き物】2021
海岸線の区分
海と陸の接する海岸線は、おおよそ砂浜、泥浜、岩礁
、転石帯
に区分されます。相模湾の海岸線は砂浜が多く、早川から江の浦を経て真鶴半島までは貴重な岩礁海岸
です。根府川には波で動きやすい丸石の転石海岸が見られますが、泥浜は三浦半島でしか見られません。岩礁海岸は磯とも呼ばれ生物相の大変豊富な区域で、右図のように潮位
で区分されています。海岸は満潮と干潮で水位が変化するのです。
私たちが磯の生物を観察するには干潮時に潮間帯
に行くのが良い方法です。この本では主に潮間帯内で見られる生物を紹介します。
プランクトンの重要性 (食物連鎖 )
植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、その動物プランクトンがイワシなどの小魚に食べられる。小魚は大魚に食べられるという関係を「食物連鎖」と呼んでいます。暖流
と寒流
が混
ざり、河川の水が流入する相模湾はプランクトンの発生にも大変適しているのです。そのために昔から良い漁場として栄えてきたのです。
食物連鎖のつりあいが壊
れて、ある種のプランクトンだけが異常に大発生することもあります。原因は水質が何らかの影響で変化するからでしょう。赤潮はこうして起こります。
タマキビ類の生活
小型の巻貝のタマキビ類は相模湾にもたくさんいます。アラレタマキビは潮上帯にいて、ほとんど海水には浸りません。イボタマキビは当地方では数が少ないようです。タマキビ類は空気呼吸するので水中に落とすとあわてるようにして這 い上がってきます。
アラレタマキビの知恵
海水の届かない高所に生活するアラレタマキビは夏の炎暑時に右図のように貝殻のへりの一部だけで岩に付着します。こうすることによって、高温の岩からなるべく体を離し、体温を維持しているのでしょう。夏の酷暑 時には特に多くこの現象が見られます。
江之 浦海岸は磯の生物の宝庫
江之
浦港の磯で、片浦中学校の生徒が生物調査をしました(平成7年)。
1㎡内の生物をすべてカウントする方法で調べましたが、なんと36種類もの生物が確認されました。磯は狭
い場所にこれ程多くの生物が生活しているのです。江之
浦の磯全体では、一体どれほどの種類と数の生物が住んでいるのでしょう。
アメフラシの仲間は雌雄
同体で全ての個体が産卵します。ゼリー質の紐
の中に小さな卵が入っていて、卵塊
1個には数万粒もの卵が入っていました。
卵がふ化すると子供(幼生
という)はプランクトン生活をして成長するのです。
卵の数が多くないと海の生物は種を維持
できないのです。
岩礁 転石地帯の生物の生息状況
江之
浦の海岸は石が重なりあっているので、表層部だけでなく、石の裏側やその下の砂の中も生物の住家となっています。まるで高層住宅のような立体構造が多くの種類と数の生きものを生活させているのです。
石をひっくり返して、裏を観察した時は、石を元のとおりにもどしておきましょう。
厳しい環境で生きるクロフジツボのからだの仕組み
この仲間は岩に固く付着
していて、一度着いたら一生そこを動けません。磯で生活するクロフジツボは満潮の時にプランクトンを捕
らえて食べ、干潮のときは空気中に晒
されています。夏の炎天下と冬の厳寒
から身を守るための工夫が、この多孔質
の空気の層を持った殻の断熱効果なのです。
一方アカフジツボは定置網のロープなどに着いていてほとんど海水中で生活しています。相模湾の海水温は冬の寒いときでも12℃程、夏の暑いときでも25℃程です。多孔質
の厚い空気の層
を持った殻の構造が、厳しい磯という環境での生活を可能にしているのです。
磯浜の植物
波しぶきのかかる岩場からゆるやかな崖
や切り立った崖のわずかな割れめやくぼみに生活している植物の中に海岸特有の植物を観 察することができます。
伊豆半島や、伊豆七島の植物と深いかかわりのある植物もあります。
海ソウ類
早川から江之
浦の海岸には、多くの海ソウ類を見ることができます。海ソウは陸上の植物と違い、もっとも生育の盛んなときは、冬の時期です。そして大潮
の引き潮の時が観察には適しています。波うちぎわから海底まで、深さによって生育する種類も異なります。
ふつう、緑色のもの(緑
ソウ類)は浅いところに多く、茶色(褐
ソウ類)、紅色(紅
ソウ類)と深いところに生育します。
磯の鳥
イソヒヨドリやクロサギのように磯を生活の場として利用している鳥もいれば、アオバトのように海水を飲みに来る鳥もいます。また餌 となるカニや貝などの小動物がたくさんいるので、渡り鳥のシギやチドリが餌の補給 や休憩 をするために立ち寄っていきます。
河原の自然観察
河原の自然観察ガイド
酒匂川は、堤防に囲まれた広い河原を持っています。栢山から飯泉取水堰 までは小石の多い河原で、それより下流は砂混じりの河原です。そこでは多くの自然が観察できます。
河原の自然観察ガイドマップ
小田急「栢山駅」から東に行くと酒匂川です。河原におりて、石や植物、虫、鳥などをゆっくり観察しましょう。
河原の植物
河原の植物は大きく三つに分けることができます。第一は水中または水辺、湿地 を好んで生えるもの、第二は砂や小石が続く高温、乾燥 のはげしい所に生えるもの、そして第三は、大雨で増水してもめったに流されない安定した所に育つ植物です。これらの他に流れついた植物、帰化植物の進出も見ることができます。
河原の石
酒匂川は、丹沢・足柄山地そして富士・箱根山の河川を集めて流れています。したがって河原では、丹沢山地の大部分を作る凝灰岩
類
や深成岩
の石英
閃緑岩
(トーナル岩)、その周辺部に分布する変成岩
のホルンフェルスや結晶
片岩
などの礫
が観察できます。また、それに混じって箱根山の安山岩や富士山の玄武岩の礫もたくさん観察することができます。早川は、箱根火山を流れるので外輪山・中央火口丘の安山岩類や、箱根火山ができる前の早川凝灰角礫岩
が観察できます。
おおまかにいうと、これらの川でごま塩の石を見つけたら石英閃緑岩(トーナル岩)、黒っぽいのは玄武岩、灰色っぽくて白い長石や緑黒色のキ石などがぽつぽつ見えるのは安山岩、緑色に見えるのは凝灰岩類。縞
模様
の入っているのは結晶片岩。黒っぽくてつるつるしているのはホルンフェルスです。
火山灰や軽石が積もってできたローム層の土を何度も洗って、残った小さな粒を双眼
実体
顕微鏡
などで見てみましょう。色々な鉱物がたくさん観察できます。
白い結晶(チョウ石)と短冊状 の黒い結晶(カクセン石)がごま塩状に見えるのが特徴です。マグマが丹沢の地下深くでゆっくりと冷えて固まってできた深成岩です。<丹沢山地の石>
灰色っぽい色をしています。箱根火山の多くがこの岩石です。マグマが地表で急激に冷やされてできた火山岩で細かい結晶の部分(石基 )と地下で早めにできたやや大きめの結晶(斑晶 )が入った(斑状組織 )をしています。斑晶のうち黒っぽいのはキ石、白いのはチョウ石です。<箱根火山の石>
黒っぽい色をしています。たくさんの穴があいているものもあります。流れやすい溶岩が地表で急に冷やされ固まった火山岩で斑状組織をしています。穴はその時にガスが抜け出てきたものです。斑晶にはアメ色のカンラン石が見られます。富士火山はほとんどがこの岩石です。<富士山の石>
堆積岩の仲間で、大きさが2mm以上 の岩片 が集まって固まったものです。酒匂川を流れて来るものはおもに足柄層群のものですが、削られやすいため下流ではあまり見られません。<足柄山地の石>
火山灰が堆積して固まった堆積岩の一つです。丹沢山地のものは海底の火山活動で噴出した火山灰が堆積したため、全体的に緑色がかっているのが特徴です。<丹沢山地の石>
火山灰に大きさが32㎜以上の軽石や火山岩片が混じっている堆積岩で、これらを盛んに噴出している火口の近くで堆積したことがうかがえます。酒匂川でみられるのは丹沢山地のもので、緑色をしています。<丹沢山地の石>
堆積岩のうち、泥岩や砂岩が主に熱によって変化してできた変成岩です。黒っぽく粒がちみつでかたい岩石で、割れ口が鋭くとがるのでホルン(角)の名が付いています。<丹沢山地の石>
地下で強い圧力を受けて変成した岩石です。結晶が一定方向にならんで見えます。丹沢山地には緑色片岩、カクセン岩と呼ばれる結晶片岩の仲間が見られます。<丹沢山地の石>
石の名前を調べよう(酒匂川の河原のおもな石)
河原の虫
河原の鳥
川の中の小魚を餌 にするカワセミや、水際の石についた水生昆虫などを餌にしているセキレイの仲間、岸辺を歩き回って餌を捜 すシギやチドリの仲間、中州 や岸のアシ原などで主に生活をするオオヨシキリ、さらにススキやチガヤの草原ではセッカが見られます。
双眼鏡の使い方
コラム
野鳥を観察する際、双眼鏡があると便利です。8倍程度の倍率のものが使いやすく、あまり重たくないものを選びましょう。また、野鳥を見る前に、双眼鏡の調節が必要です。
① ピント合わせ
やや遠くの目標物を決め、まず左眼でレンズをのぞきながらピントを合わせましょう。ピントは中央のリングを使って合わせます。
② 視 度 調節
右眼と左眼の視力が違う場合があります。そのため、今度は右眼で見ながら、接眼 レンズにある視度調節リングを動かして、ピントを合わせます。
③ 幅合わせ
双眼鏡の左右を持って角度を変え、両眼で見たときに視 野 が丸く一つの円になるように調節します。
川の中の水生生物
小田原を流れる酒匂川や早川・久野川は、流れも速く、水もきれいなので、水中や川底の石の下などにはたくさんの生き物がいます。どんな生き物が、どんな生活をしているのか観察しましょう。
小田原市の魚
水質を判定しよう
コラム
水の汚れ具合 | 指標生物 | |
---|---|---|
きれい | サワガニ、カゲロウ類、カワゲラ類、プラナリアなど | |
ややきれい | シロタニガワカゲロウ、シマトビケラ、ヒラタドロムシなど | |
きたない | ミズムシ、シマイシビル、フナ、オイカワなど | |
とても きたない |
ユスリカ、エラミミズ、サカマキガイなど |
水生生物で川の水質が判
定
できます。
正しくは石についている藻
類
や化学的方法を使い、その総合的数値で判
定
されますが、水生生物だけでも十分目安になるので、調べてみましょう。
かんたんな植物の分類表
コラム
植物の研究をするとき、もとになる分類表です。
よく観察し、自分の力で仲間わけをしてみましょう。
取水堰 の鳥
酒匂川の飯泉取水堰は野鳥の宝庫です。ゆっくりと鳥を観察しに行きましょう。
飯泉取水堰 のようす
一年中水が豊富にあり、中 州 には野鳥が繁殖 できる環境があります。また、周囲には、休息をしたり、エネルギーを補給できるような場所や植物もあるので、ここでは生態系のバランスがうまく成り立っています。そのために、1年を通して多くの野鳥を観察することができます。
酒匂川の鳥【春・夏】2021
酒匂川の鳥【秋・冬】2021
取水堰 は人工的に川をせき止めているので常に水が豊富にあり、人間が近づくことができないので安心して鳥たちが休めます。また 中 州 以外にも水草やアシ原などもあり、上流から流されてくる植物など餌 になるものも多く、カモやカモメの仲間をはじめ、シギ・チドリ・サギの仲間、そしてトビなどの猛禽類 も見ることができます。
酒匂川の鳥【身近なハンターたち】2021
今年も会えるかな
―取水堰
に立ち寄る野鳥達―
コラム
飯泉取水堰 は、渡り鳥たちの中継 地でもあります。春や秋には普段は見ることの出来ないシギやチドリの仲間に偶 然 出会うこともあります。また、年によって小田原を訪 れたり来なかったりする野鳥もいます。
市の鳥 コアジサシ
コラム
1995年に小田原市の鳥に選ばれました。毎年、酒匂川下流の中
州
に集団で営
巣
をしています。巣は地上にくぼみを作り、中に小石を敷いただけの簡単なもので、卵やヒナは周りの小石や砂利と同じ様な色をしていて、注意しないと見分けがつきません。
多くは4月下旬頃から渡ってきて卵を生み、ヒナを育て、8月下旬から9月初め頃に南に向かって渡って行きます。今までに、酒匂川のコアジサシがオーストラリアの近くのカロリン諸島まで渡って行っている事実が確認されています。
翼
はやや灰色をしていますが全身が白っぽく、頭の上から後ろにかけては黒いです。嘴
は黄色く先端が黒い色をしています。名前のとおり空中で狙
いを定めると、アジを刺
すように嘴から一気に水中に飛び込んで餌
を捕
らえます。
市の鳥【コアジサシ】2021
平地の自然観察
平地の自然観察ガイド
小田原の平地は主に水田や畑、そして、住宅地として利用されています。そこには、人間とのかかわりを深く持ちながらも色々な動植物が生きています。さあ、身近な自然の探索 をしましょう。
平地の自然観察ガイドマップ
小田急の「富水駅」から東に行き、酒匂川を渡ると、水田や畑が多く見られ、あぜ道や農道で自然観察ができます。近くでメダカ(ミナミメダカ)も見ることができます。
水田の自然
水田の自然ガイド
水田の中には、夏に水が入り、冬は乾くという環境に適した植物や昆虫・鳥などが生きています。畦 や用水路の周辺はそれらのよい観察場所です。
水田の植物
トキワハゼ
水田の虫
虫と遊ぼう
コラム
バッタつり
水田の生き物
水田の鳥
水田の中だけでなく、田んぼの間を流れる小さな川も含めて、サギの仲間やタシギ、カルガモなどを見ることができます。 ただ単に餌 を採 るだけでなく、休息の場にもなっています。また、冬の間は夕方から朝方の間にカモが落ち穂を食べに来たりもします。
畑地の自然
畑地の自然ガイド
小田原には、果樹園や野菜畑があちこちにあります。農家の方々の迷惑にならないように気を付けながら、自然観察をしてみましょう。きっと新しい発見があるでしょう。
畑地の植物
畑はちょっと油断すると、すぐに雑草(野草)に覆
われてしまいます。これは、絶えず畑の周辺から色々な植物の種が進入してくるからです。風に乗って飛んできたり、動物に付いてきたり様々ですし、土中の植物の切れ端からも育ちます。
放置するとやがてはシイやタブの林に変わって行きます。
畑地の虫
ハチとアブの違い
ハチは、触角が長く羽が4枚です。
アブは、複眼が大きく羽が2枚に見えます。
鳴く虫
コラム
鳴く虫
コラム
これらのハチは、チョウやガの幼虫や他の虫などを餌 としています。
畑地の鳥
果樹園などでは、秋から冬にかけて、特にミカンやカキの実を食べにメジロ、ヒヨドリ、ツグミ、ムクドリ、などがやって来ます。
また、ツグミやアカハラが地上にいる小動物を探して落ち葉を引っくり返しながら歩いている姿も見ることができます。
1枚の羽根から
コラム
道ばたで鳥の羽根を拾
うことがあります。1枚の羽根から持ち主を想像してみましょう。この羽根は軸
の左右の幅が大分違います。
これは翼
の先端近くにある初列風切羽根
といって、鳥が飛ぶ時に前進するための部分です。全体的にオレンジ色っぽい色をしていて、一部が濃い茶色になっています。羽根の長さは70mmありました。
この羽根の持ち主はジョウビタキで、体の大きさはおよそ140mmになります。羽根を拾った季節や環境、模様や羽根の長さから予想できる体の大きさなどをヒントに、持ち主を想像してみましょう。
市街地の自然
市街地の自然ガイド
人々がたくさん住んでいる市街地や住宅地でも、空き地や街路樹の根元などに自然を見ることができます。また、人間の住む所を生活の場とする虫や鳥もたくさん観察できます。
市街地の植物
市街地の虫
目がへこんでいる。
ギンヤンマ
羽が曲がっている。
ネキトンボ
学校のプールにも、秋から夏までの間に落ち葉や葦
などを入れておくと、珍
しいトンボが発生します。
しかし、ヤゴからトンボになるときに条件が悪いと目がへこんだり羽が曲がったりすることがあります。
幼虫は、コナラなどの葉を食べて育ちます。
この2種はカイコの仲間で、丈夫な糸がとれます。
成虫
幼虫
成虫
幼虫
これらのガは、夜、人家の灯りに集まってきます。
市街地の鳥
留鳥・夏鳥・冬鳥・旅鳥
コラム
鳥の名前の後ろにある留鳥・夏鳥といった表示について説明します。
夏鳥:春に南から日本に渡ってきて繁殖 し、秋になると南の国に渡って行く鳥。
ツバメの巣について
コラム
ツバメの巣は種類によって、それぞれ特徴的な形をしています。
市街地の鳥【ツバメ】2021
都市化した鳥たち
コラム
野鳥の中には人間社会に適応し、都市の中に入り込んで私達人間のすぐ身近で生活しているものがいます。
丘陸の自然観察
丘陵の自然観察ガイド
小田原の西部は、箱根外輪山から続く丘が広がり、東部の曽我丘陵にはなだらかな丘が続いています。人工林やミカン畑等の合間の谷筋 や林には、豊かな自然があふれています。
丘陵の自然観察ガイドマップ
箱根外輪山 の東斜面 にあたる久野地域は、丘陵 の自然を観察するには大変よい所です。そこにある公園などの施設を活用し小田原の豊かな自然を満喫 しましょう。
丘陵の自然の観察【夏の虫】2021
雑木林の自然
雑木林の自然ガイド
小田原東部の丘陵や西部山地の山裾 には、スギ・ヒノキの人工林の間にクヌギやコナラの植えられた雑木林が点在しています。近頃そこは、下草刈をしていないところが増え、自然観察には良い場所となっています。
雑木林の植物
雑木林は、クヌギやコナラ、イヌシデが多い。かつてこれらの落ち葉は堆肥 として、また材はまき炭、シイタケの原木として利用されてきました。最近はその利用も少なくなり、杉やヒノキの植林地と変わっていき、それにともない雑木林の植物の種類も少なくなってきました。
ドングリの話
コラム
ドングリの種類
人間と自然 -自然を守る-
コラム
私たち日本人は、野山に咲く花を愛し、それを生活の中に取り込んでいました。また、軽やかに舞うチョウに春を喜び、木で鳴くセミの声に暑さを忍
び、青い空に飛ぶ赤トンボに秋の訪れを感じていました。そして、暗闇で明滅する淡いホタルの光に寄せる思いには深いものを持っていますし、野山を飛ぶ鳥に生きる喜びや未来の夢をたくし、地域に育つ大木に不思議な力を感じみんなで大切にしてきました。
このように、自然と一緒になって生き、嫌な生き物も含めて「なかま」として自然の命を大切にしてきたのが日本人なのです。
しかし、今や人々の暮らしや文化が変わり、環境の汚染やコンクリート化が進み、周りから生き物達の姿が消えつつあり、自然の中で舞うチョウやトンボやホタルを見ることはだんだん夢のようになってしまいました。
小田原の豊かな自然の姿は地域にすむ長老の話の中でしか感じることができなくなってしまっているように思います。
近年、このまま自然環境を変え続けると人間そのものが地球上で生き続けられなくなるのではないかということが分かり、あちらこちらで自然や緑を守るいろいろな取り組みが行われるようになってきました。
小田原市でもビオトープ(生き物のいる場所)を造ったり、生き物が住める用水路の改修や自然公園を建設したりしています。また、地域の方々が河川の清掃活動して下さっていますし、落ち葉や生ゴミの再利用などが行われています。
色々な生き物がすんでいる自然豊かなきれいな場所は、私たち人間にとっても大切なところなのです。
雑木林の虫
樹液を出す木には、虫が多く集まります。昼でも、夜でも、常にお客でいっぱいです。カブトムシ、クワガタムシを観察するときには、スズメバチに注意しましょう。
ふだんは、木の皮のように見せかけるガも、派手な下の羽を見せながら、樹液争いに加わっています。
上の6種は、暗い色をしていますが、チョウの仲間です。ガとチョウの見分け方は難しいのですが、次のようなポイントで見分けると良いでしょう。
最近よく見かけるようになった植物
コラム
ビオトープづくり 学校編
コラム
身近かに自然を取り戻そうとする取り組みがビオトープ(生き物のいる場所)づくりです
(1)報徳小学校のビオトーブ(報徳ランド・報徳の池)
平成5年中庭に井戸を掘り、水の流れや池を造 りました。池や周辺には水生植物や地域の草木を植え、酒匂川水系のメダカを放流しました。ゲンゴロウの仲間なども見られるようになってきました。
(2)千代小学校のビオトーブ(ほたる田)
平成6年学校の裏にあった休耕田と井戸を借用し、流れや池を造りました。周辺は、自然状態を保つようにし、歩く所には木道を造りました。一部は実習用の水田や畑にしています。
(3)下曽我小学校のビオトーブ(自然ランド)
平成17年にプール横の市営住宅跡地に子どもの思いを生かした自然ランドをつくりました。古井戸を改修し、その水を流して小川や池をつくり、木を植えて生き物の来る場所にしました。クロスジギンヤンマが羽化し、放流したホタルも飛び始めました。
雑木林の鳥
特定外来生物(外来種)の話
コラム
きれいな声で鳴き、姿も美しいのですが、彼らはもともと日本にいた野鳥ではありません。人為 的に日本に持ち込まれ、野生化したもので、特定外来生物に指定されています。彼らの繁殖 が増え続けると、日本で生息域 が重なるウグイスやツグミ類などへの影響が心配されています。
ミカン畑の自然
ミカン畑の自然ガイド
小田原の丘陵の多くはミカン畑として利用されています。そこでは、溜 め池や周辺の雑木林を利用した生き物がたくさん観察できます。作物を傷 めたり、農作業のじゃまをしないように気をつけて、自然観察を楽しみましょう。
ミカン畑の虫
鋭いあごを持ち、髪の毛を切ることができることから、カミキリムシと呼ばれます。でも、いじわるしなければ、まずかまれることはありません。
ゴマダラカミキリは、ミカンの木に大きな被害を与えるため、ミカン農家が子ども達に駆除を手伝ってもらった時期もあったそうです。
成虫
幼虫
成虫
幼虫
清流の自然
清流の自然ガイド
小田原の丘陵には、きれいな水の流れているところがたくさんあります。そこには多様な生命が育まれていますので、自然観察には最も適した場所になります。
清流の虫や生き物
成虫
幼虫
成虫
幼虫
トンボのオス・メスの見分け方
丘陵地のキノコ
山地の自然観察
山地の自然観察ガイド
小田原には明星ケ岳・塔の峰・白銀山や星山など、800mら1000mに近い山々があります。そのほとんどはスギやヒノキの人工林ですが、所々で山地ならではの自然が観察できます。
山地の自然観察ガイドマップ
宮城野林道沿いの(旧)塔の峰青少年の家から明星ケ岳の登山口に至る道の周辺は、小田原の山地の自然を観察するには大変良い所です。足をのばし、明星ケ岳に行ってくるのもよいでしょう。
・塔の峰までは、急な上りなので、すべらないくつが必要です。
・山道なので一人では行かないようにしましょう。
山地の植物
山地の虫
山地の鳥
小田原の生き物(虫や鳥等以外の生き物)
小田原の自然観察ノート No.2
地形・地質の観察
小田原の地形・地質
小田原は山地、丘陵、平地、海と変化に富んだ大地です。そこには1000万年以上の年月をかけた地球の活動の痕跡 が見てとれます。この章ではそんな小田原の地形や地質を観察してみましょう。
神奈川県立生命の星・地球博物館 提供
小田原市の地形は、大きく東部・中央部・西部の三つに分けられます。形成年代の順に見ていくと、東部は大磯丘陵
の南西部にあたります。西部は箱根火山で、外輪山とその山麓
にゆるやかに広がる
軽石流堆積面
(軽石流とは火砕流
の一種です。)があります。外輪山の斜面は侵食
(けずること)による放射状
の谷が発達しています。中央部は足柄平野で、東部の大磯丘陵とは国府津-松田断層
を境にして接しています。足柄平野内にも軽石流堆積物が残っている千代台地、約2900年前に発生した富士火山の御殿場岩屑
なだれ堆積物が残っている鴨宮台地、酒匂川に沿ってできた自然堤防
などの微地形
が発達しています。
では、これら3つの地域について詳しく観察していきましょう。
小田原市東部の観察
(1)国府津-松田断層
大井ー松田断層【千代台地】2021
下の写真は国府津-松田断層のトレンチ調査をしたときのものです。国府津-松田断層は平均すると3000年で約10mの割合で動いている活断層ですが、断層そのものは地表に現れていません。そこで、溝 (トレンチ)をほって断層を調査する方法(トレンチ調査)がとられました。平成14年に曽我原地 区で断層が発見され、最も新しい活動は鎌倉時代ころであることが分かりました。今後30年以内に再び動く(大地震を発生させる)確率は0.2~16%とされています。
(2)大磯丘陵南西部(曽我山周辺)
1
2
3
4
5
6
中村原の地形を空から観察しましょう。二枚の空中写真の同じ場所をそれぞれの目で遠くを見る感じで見ていると立体的に見えてきます。中村原が平らな段丘面 であることがよく分かります。
〈昭和4年 神奈川県撮影〉
小田原市西部の観察
(1)箱根山麓 の観察
箱根火山の地形は斜面の急な外輪山
と山麓
のなだらかな軽石流堆積面
の2つに分けることができます。ここで見られる地層はすべて陸上で堆積したものです。外輪山はいくつもの成層
火山が集まったもので、溶岩と火山砕
せつ物からできています。溶岩は灰色の安山
岩で、溶岩を石材として掘
っている採石場がいくつかあります。溶岩は何枚もあり、その間には同じ外輪山から降り積もった火砕物
の地層がはさまれています。
軽石流堆積面は約8万~6万年前に発生した火砕流
によるものです。火山灰と軽石に火山ガスが加わって外輪山を流れ下り、山麓をうめてなだらかな平らな地形をつくりました。軽石流堆積物の地層の上には中央火口丘
からの軽石や富士山からのスコリア(黒っぽい軽石)などの火砕物が、陸上で降り積もってできた関東ローム層と赤褐色
の地層が見られます。軽石流堆積面は、諏訪
ノ原から、北ノ窪
、府川、穴部の方向と、久野、多古
へ向かう2つの方向に、また、水之尾から星山、荻窪の方向と、谷津、城山へ向かう2つの方向に広がっています。
代表的な柱状図 とかぎ層
かぎ層とは、はなれた土地のつながりや年代を調べる手がかりになる地層のことで、代表的なものには独特の名前もついています。
富士山の宝永 スコリア(上曽我)→
箱根中央火口丘
軽石を含むローム層
(水之尾)↑
軽石をはさむ地層
(曽我山)→
断層も見られる
*AT 現在の鹿児島湾にあった始良火山の大爆発で、ガラス質の火山灰がほぼ日本全域に飛ばされたものです。
(2)磯 の岩石の観察
早川の漁港より南の海岸には外輪山の溶岩がせり出した岩場(磯)が続きます。これは箱根火山の一部が海の侵食作用 を受けてできた地形で、磯の溶岩は安山岩です。割れ目がたくさんありますが、これは節理 といい、溶岩が冷え固まるときに縮 んだためにできたものです。溶岩の他に赤っぽい色をした火山砕屑物 の地層もあり、溶岩と火山砕屑物が交互 に重なった断面 が見えています。
(3)4つの平坦面 の観察
箱根火山の山麓 周辺 には4つの平坦な地形面が観察できます。一番高い面はフラワーガーデンや県立おだわら諏訪ノ原公園がある平らな土地で軽石流堆積面です。次は狩 川と山王 川に沿って分布する河岸段丘面 で、内山面 と呼ばれ、川のレキ層とそれをおおう関東ローム層からできています。山王川に沿う面は船原 、欠 の上、中宿 、下宿 と続いています。その次の御殿場 岩屑なだれ堆積面 は富士山の泥流でできた平坦面で、玄武岩質 の砂レキ層からなり酒匂川に沿う河岸段丘をつくっています。一番下の府川面は谷底平野 に接するところで、府川から穴部にかけての軽石流堆積面のはじにあたり、狩川の 低地からの高さは15~20mあります。観察してみましょう。 ↓諏訪ノ原
小田原市中央部の観察
足柄平野の微地形
①自然堤防と砂礫堆の観察
川によって運ばれる砂や礫は、流れのゆるやかな川岸にたまりやすいため、川岸には自然堤防と呼ばれる高まりができます。酒匂川は過去、氾濫 によって流れを変えてきたため、自然堤防が現在の流れとははなれたところのもあり、しかも流れを変えたときに自然堤防が切られるため、小高い地形(砂礫堆)が複雑に分布しています。これらの場所は洪水でも水につかりにくく、古くから集落があった場所で、栢山 、飯田岡 、小台 、桑原 、扇町の一部などがそれにあたります。
②鴨宮台地の観察
約2900年前、富士山の東側中腹で山体崩壊 が発生しました。これは御殿場 岩屑なだれとよばれ、多量の礫や砂が地元の御殿場はもちろん酒匂川の谷間を通って、相模湾にまで達しました。足柄平野を埋めつくしたこの泥流堆積物はその後、酒匂川によって侵食されたり、新しい堆積物でおおわれたりして、今では西部山麓や鴨宮台地で見られるだけです。鴨宮台地は、泥流発生以降に隆起したため酒匂川の砂礫がその上に堆積しないで、泥流がそのまま残っているのです。
③千代台地の観察
東大友から永塚 、千代、高田付近にかけて足柄平野より20~30mの高台が観察できます。ここは約8万~6.6万年前の箱根火山の軽石流とロームが堆積しています。千代台地の地形が最も分かりやすいのは、千代小学校から下曽我方面をのぞむ景観です。バス通りを下曽我駅に向かうとすぐにS字に曲がって台地に登ります。少し平らな土地が広がり、東に向かってゆるやかに下っています。西側の台地の縁の方が急傾斜になっていますが、これは断層活動によって千代台地全体が東に傾いたためと考えられます。
↓千代台地を含む空中写真
資料1 小田原の大地の成り立ち(地史)
資料2 箱根火山の成り立ち
箱根火山がどのようにできたのかみてみましょう。
箱根火山では、約40万~23万年前までのおよそ20万年の間にいくつもの成層火山
ができました。その後、約23~13万年前の間には、何度も大きな火砕流
が流れ出し、カルデラと外輪山ができました。
この時、できたばかりの外輪山では小さな火山がたくさん噴火しています。約13万~8万年前までにたくさんの火山からなる中央火口丘ができました。
約8万~4万年前には爆発的な噴火がくり返され特に約6.6万年前には大規模な火砕流(軽石流)を起こす噴火がありました。この時に噴出された軽石は東京軽石と言われています。
約4万年前~現在は、カルデラの内側に粘り気のある溶岩が噴出して神山、駒ケ岳、二子山など、ドーム型の中央火口丘ができました。
一番最近のマグマの噴出はおよそ3千年前で、大涌谷でおこりました。この時の山崩れ堆積物が早川の上流部をせきとめて現在の芦ノ湖ができました。 (作図 長井雅史)
資料3 小田原における地形・地質の歴史
資料4 火山の噴出物について
火山の噴火はマグマが地表に出ることでおきます。マグマは地下の岩石が溶けたものですが、中には水や少量の硫黄
なども含まれています。これらは火山ガスとしてマグマから泡となって出て爆発の原動力となります。マグマをつくる岩石の違いも影響しますが、火山ガスの量が多いと噴火は激
しくなり、マグマは細かくくだかれて噴煙となります。逆に火山ガスの量が少ないと噴火はおだやかになり、マグマはそのまま流れ出して溶岩流となります。噴煙
の中にはさまざまなものが含まれますが、これらをまとめて火砕物
(広い意 味での火山灰)と言います。溶岩も火砕物も元は同じマグマです。
噴煙には、空気より軽くなって上昇するものと、軽くならずに流れ下るものの2種類があります。
空高く上昇した噴煙からは広い範囲に火砕物が降ります。これを降下火砕物と言います。一方、流れ下る噴煙は火砕流と呼ばれています。
高温の噴煙が時速100kmをはるかに超える速度で流れるので、とても恐ろしいものです。
火砕物は『テフラ(ギリシャ語で「灰」という意味。)』とも呼ばれますが、大きさや形で色々な名前が付いています。
細かい(2mm以下)ものを火山灰、それ以上の大きさで火山ガスの泡がたくさんできていて白っぽい色をしたものを軽石、黒っぽい色をしたものをスコリアと言います。
軽石やスコリアの地層の中には溶岩の破片が含まれている場合があります。これは火口近くの岩石が噴火に巻き込まれて飛んできたもので火山岩片
と呼んでいます。
火山砕屑物分類表
1.運ばれ方による分類 | テフラの形を加えた呼び方 | |
テフラ (火山砕屑物) (広い意味の火山灰) |
空中から降下するもの 降下火砕物(下降テフラ) |
降下軽石(浮石)、降下スコリア、降下火山灰など |
乱流となって地表を流れるもの 火砕流堆積物(テフラ流) |
火山灰流、軽石流、スコリア流、熱雲、泥流など |
2.形による分類
粒の大きさ | 特定の形、構造をもつもの |
径 64 ㎜以上
火山岩塊
|
火山弾 軽石(パミス) 溶岩餅 スコリア 火山毛(ペレーの毛) 火山涙(ペレーの涙) |
径 64 ㎜ ~ 2 ㎜
火山礫
|
|
径 2 ㎜以下
火山灰
|
ここにあげた4つの広域 テフラは、日本の代表的なものです。火山列島である日本は、たくさんのテフラで埋 もれています。中でも、鹿児島湾ができた時の姶良 丹沢火山灰(AT)の分布はほぼ日本全土に広がり、箱根火山の大爆発で生じた東京軽石(TP)の分布と比べても比較にならないほどの爆発であったことがうかがえます。また、テフラの分布が東方に広がっているのは上空の偏西風 に運ばれていくためです。
小田原の自然観察ノート No.3
小田原の天然記念物
小田原には記念物に指定された多くの樹林や森などがあります。地域の人々が古くから親しみ、守り育ててきた自然への思いを大切にしながら、ゆっくり観察したいものです。
No. | 記念物名 | 場所 | 観察のポイントなど |
1 | ビランジュ | 早川 | 国指定の天然記念物(推定樹齢300年) 正式和名 バクチノキ(バラ科) 暖かい地方の木で、これほどの巨木はめずらしいので、ぜひ観察したい。 |
2 | 小田原高校の森 | 城山 | 暖かい地方の自然に近い林で、県指定の記念物 シラカシ、クスノキ、ホルトノキ、ヤブツバキ、タブノキなどの木やヤブラン、ベニシダなどの草が観察できる。 |
3 | イチョウ | 飯泉の勝福寺 | 推定樹齢700年以上の古木で、県指定の記念物。イチョウの特徴である乳柱も観察できる。 |
4 | 飯泉勝福寺の林 | 飯泉 | 古い時代に植えられた巨木の林で、県指定の天然記念物 ケヤキ、クスノキ、カヤ、エノキ、ナギ等の古木が28本もある林がすばらしい。 |
5 | クロマツ ノダフジ イヌマキ |
小田原城址公園 | 城址公園内には樹齢400年以上のクロマツや「御感の藤」という樹齢190年以上のノダフジ、樹齢500年以上のイヌマキなどの名木が生育している。 |
6 | ホルトノキ | 城山 | 暖かい地方の木です。常緑の木ですが、年中紅葉した葉を落とすのが特徴。 「ポルトガルの木」が和名の元です。 |
7 | 長興山の森 | 入生田 | 長興山のシダレザクラは有名ですが、その周辺のスダジイやイヌマキの林は自然に近い林で、市の指定記念物です。 |
8 | 近戸神社の森 | 前川 | 暖かい地方の海岸の樹木や草本が自生していて、貴重な照葉樹の自然林です。 タブノキ、モッコク、シロダモ、モチノキやモクレイシ等があります。 |
9 | カヤ | 久野 | 総世寺にある樹齢300年ほどの巨木。 |
他に、入生田駅近くのカゴノキ、早川「真福寺」のタブノキやイトヒバ、鴨宮「光照寺」のヒイラギ、千代「三島神社」のケヤキ、上曽我「瑞雲寺」のモッコク、沼代「王子神社」のスギなど、一度は見たい名木が多くあります。また、上曽我「須賀神社」のクスノキにはオオバヤドリギが30以上も寄生していますし、酒匂「上輩寺」には、長い乳柱がたくさんぶら下がっている変わったイチョウもあります。また、国府津の「真楽寺」にはボダイジュ、菅原神社にはムクノキ、中村原の広済寺には樹齢300年以上ものカキの木など珍しい木もあります。
★小田原市HPも参照ください
自然観察のできる施設等の案内
番号 | 施設名 | 主な観察事項 | 備考 |
1 | いこいの森 | 雑木林の自然 ・クヌギ・コナラ・イヌシデの林
スギやヒノキ等の植林地の植物清流の生き物(水生昆虫など) |
|
2 | 辻村植物公園 | 外国産の樹木(ユーカリ等)の観察 梅の木の観察 クヌギやコナラのカブトムシなどの昆虫 |
|
3 | わんぱくらんど | クヌギ・コナラなどの植樹林の樹木 カブトムシやクワガタムシなどの昆虫類 草原の野草や野鳥 |
|
4 | 旧塔の峰青少年の家周辺 | 山地の自然 ・ヤマボウシやホウなどの温帯林の樹木
・サラシナショウマやヤマトリカブト・ヒメヤブラン・リンドウなどの草本類
・キアゲハ・カミキリムシなどの昆虫類
|
足柄幹線林 道の沿線 |
5 | フラワーガーデン | 芝地の生き物の観察 池や小川の生き物・水辺の植物 梅などの栽培樹木の観察 |
温室内の熱帯の植物も観察できる。 |
6 | 小田原城址公園 | ククスノキ、クロマツ、イヌマキ等の大木 桜(ソメイヨシノ)の花の観察 火山灰で出来た地層の観察 |
|
7 | 城山公園 | 暖帯の自然林の観察 ・スダジイ、タブノキ、イヌマキなど
・ヤブニッケイやヒメユズリハなど
落葉樹の林 ・イヌシデやケヤキ
・林間の野鳥(コゲラ・シジュウカラなど)
・樹林や草はらの昆虫(クチキコオロギなど)
|
小田原高校の林を含む。 |
8 | 大稲荷様 | スダジイの林 ・シイの実の採集
|
|
9 | 長興山鉄牛和尚の森 | 暖帯の自然林の観察 ・スダジイ・イヌマキの大木
・ハナミョウガ・カギカズラなど
・サワガニやアカガエルなどの生き物
|
入生田の長興山の森 |
10 | 紀伊神社 | 暖帯林の植物 ・クスノキやバクチノキの大木
・キチジョウソウなどの下草
|
|
11 | 一夜城址 | 丘陵の自然 ・ヒメボタルの観察
・キノコ類の観察
・芝地の植物や昆虫
|
|
12 | 上府中公園 | 池や庭園の自然 ・水辺の植物
・トンボ類の観察
・ケヤキなどの樹木
|
|
13 | 弓張りの滝 | 丘陵の自然(カシ林) ・地層や断層の観察
・アラカシやシラカシなどの林と下草(キチジョウソウやオオバのハチジョウシダなど)
・ウワミズザクラ・クサギなどの花・サワガニやトンボ類
|
剣沢の上流 |
14 | 飯泉観音 | 大イチョウ(名木) スダジイやタブノキなどの暖帯林の樹木やケヤキの大木 |
|
15 | 菅原神社 | ムクノキの大木 ・ムクノキの葉で物をみがいてみることができる。
|
国府津 |
16 | 近戸神社の叢林 | 暖帯林の自然植生の観察 ・スダジイやタブノキなどの林
・ヤブニッケイやクスノキの大木
・モクレイシ・ヤブツバキ等の低木
・キチジョウソウなどの下草類
|
前川 |
17 | 桜の馬場 | 桜(ソメイヨシノ)の花 草原の植物の観察 |
|
18 | 王子神社 | スギの大木 シャガやホシダ等の草本類 |
|
19 | 六本松周辺 | 丘陵の自然 ・アラカシ・シラカシなどのカシ類
・サネカズラやヤブミョウガの花や実
|
|
20 | おだわら諏訪の原公園 | 丘陵の自然 ・桜(ソメイヨシノ・ヤマザクラ)の花
・バッタやカブトムシなどの昆虫
|
「小田原の自然」観察会に参加しましょう!!
この本を活用し、小田原で見られる植物や昆虫、地層や岩石、野鳥、磯や川の生き物などを観察する会を行っています。かれこれ20年近くも続いている観察会で、講師は、「小田原の自然」を作った先生方や自然観察指導員などが担当しています。
本では紹介できなかったものもたくさん見られますし、色々な質問も出来る楽しい観察会です。
観察会の案内は教育研究所から小田原のすべての小中学校に配布されています。いつでも、だれでも気軽に参加できますので、学校で案内書を見たら、家族の方や友達を誘って参加の申し込みをして下さい。楽しく一緒に小田原の自然を探検しましょう。
「小田原の自然」観察会に参加して、自然のすばらしさを発見しましよう!
実施月 | 講座(観察会)名と内容 | 主な観察物 | 場所 | 時間 |
4月 | 平地の自然 あぜ道の花や虫そしてメダカ |
メダカ ケキツネノボタン イワツバメなど |
富水~桑原 | 午前中 |
5月 | ツバメの観察会 ツバメの観察・調査 |
ツバメ ヒメアマツバメなど |
市役所周辺 | 午前中 |
6月 | 海岸の自然 磯の生物を探そう |
ウミウシ・イソガニ ハチジョウススキなど |
江の浦海岸 | 午前中 |
6月 | 丘陵の自然 夏の虫を探そう |
カブトムシ・クワガタ ラミーカミキリなど |
辻村植物公園 | 午前中 |
10月 | 小田原の地形 地質・地形を調べよう |
大磯丘陵・国府津-松田断層 アサギマダラなど |
下曽我 千代台地 |
午前中 |
10月 | 山地の自然 山の花や鳥を探る |
キバナアキギリ・シロヨメナ ウラギンシジミ シジュウカラ・コゲラなど |
長興山 荻窪用水 |
午前中 |
11月 | 酒匂川の自然観察 河原の岩石・植物 |
石英閃緑岩など カワラヨモギ・ツルヨシなど |
報徳橋付近 | 午前中 |
1月 | 酒匂川の野鳥 カモなどをみよう |
ハヤブサ・カワラヒワなど ヒドリガモ・オオバンなど |
酒匂川水系 蛍田 狩川 |
午前中 |