facebook twitter instagram Line

「そらにまっかな」
「空に真赤な」(大正8年)

解説

 「八少女」明治42年(1909)1月号初出、『邪宗門』(易風社、明治42年)、『白秋小唄集』(アルス、大正8年(1919)9月)再録。
 明治41年5月作の原詩は、象徴詩時代の白秋を代表する作品の一つです。白秋や石井柏亭、木下杢太郎らが集った耽美主義的芸術家グループ「パンの会」の饗宴の会で歌われました。白秋は、「私の作った小唄のなかで最も古いものゝ一つである」(『白秋小唄集』)と回顧しています。原詩は、白秋の象徴詩集『邪宗門』に掲載されましたが、当館所蔵の草稿は、「空に真赤な」の表題を記載した当館所蔵の別稿(E001-001-050)のページ指定が『白秋小唄集』の掲載ページと一致することから、『邪宗門』の10年後に刊行した『白秋小唄集』掲載のために大正8年頃に書き直したバージョンです。この詩は、リフレインの技法を使っていること、また行末の音が「ろ」に統一され韻を踏んでいることなど、口ずさみやすいリズミカルな音律が特徴的です。
 まず、草稿を『邪宗門』掲載の原詩と比較すると、異なるのは2行目冒頭部分です。原詩では、ガラスを意味する「玻璃(はり)」という言葉が用いられ、エキゾチックな雰囲気が漂いますが、草稿は「瓶」に変更されており、より平易な表現が採用されています。
 さらに、「空に真赤な」は、4行で構成された短い詩で、そのうち2行にはリフレイン(同じ表現の繰り返し)が用いられています。草稿と『白秋小唄集』掲載詩を比較すると、繰り返しの行が異なっていることがわかります。草稿では、1行目と同じ「空に真赤な雲の色」が最終行に来ますが、『白秋小唄集』掲載詩は、2行目と同じ「瓶に真赤な酒の色」が最終行に来ます。また、リフレインに着目し、『邪宗門』掲載の原詩と草稿を比較すると、草稿と同様に1行目の「空に真赤な雲の色」が繰り返され、最終行に来ています。
 詩全体のリズムを左右するリフレインの変更は、作品全体の印象を大きく変えます。原詩は有名な作品でしたが、白秋は『白秋小唄集』にそのままの形で再録するのではなく、リフレインや言葉を入れ替えながら、何度も推敲していたことがわかります。
 象徴詩時代の白秋作品と比較すると異国情緒はあまり感じられませんが、夕焼けの空の赤さに瓶に入ったワインの赤さを重ね合わせ、青春の儚さや耽美性を象徴的に表した作品です。
 朗読:堀井 美香
 ※草稿のため、発表作とは記述が異なる場合がございます。
収蔵先/所蔵者
小田原市立中央図書館
種別
文学
所在地/展示場所
〒2500875 神奈川県小田原市南鴨宮1-5-30 小田原市立中央図書館

その他の厳選コンテンツ

TOP